“ツイてない日”の梅仕事



思えばその兆候は、朝からありました…。

久しぶりにカーテンの隙間から明るい光が差していて、「これはチャンス!」とばかりにいそいそと野良着に着替えて畑の手入れに出た途端、大粒の雨が降ってきたり。

しょんぼりしながら朝食を食べている時、2つのコップをドミノのようにまとめて倒してしまい、辺り一面水びたしになったり。

そのあと晩ごはんの仕込みをしている時に、重く極太なニンジンが転がり落ち、足の指を直撃したり。ついでにタマネギも、なんだかいつにも増して目に染みたり(1分くらい悶絶)。

他にも「それほどダメージは大きくないけれど地味に嫌」という小さなアンラッキーがチラホラと。

外は朝から降り出した雨が勢いを増し、空は重い鈍色。
家の中も薄暗い。

なんとなく『今日は静かに過ごした方が良さそう』と感じ、この日は家に篭ることに決めました。

今回は、そんな“ツイてない日”に行った、今年の梅仕事の記録です。

忘れられた梅の実



さて、じゃあ大人しく本でも読んで過ごすか…と考えていた時、どこからか、ふわ~っと甘い香りが。

その瞬間、ある重大なことを思い出しました。

それは、段ボールに入ったままの梅の実のこと。
2日程前に実家から梅が届いていたことを、うっかり忘れていたのでした…。


実家には何本かの梅の木があって、父が丹精しているその木たちは、時季になるといつもたくさんの実をつけてくれます。毎年その実を少し送ってもらい、梅酒を中心にいくつかの加工品を自作するのが、この時季のちょっとしたお楽しみ。


市販の梅酒も大好きなのですが、自家製梅酒の魅力はなんといっても「自分好みの味の梅酒」が作れること。お酒と砂糖の種類、それから分量(梅との割合)を毎年少しずつ変えて、試行錯誤を続けています。

あ、「お酒の種類」と書きましたが、果実酒に使用するお酒は「アルコール度数が20度以上」であることを確認のうえお使いくださいね(アルコール度数が20度未満のお酒を使用することは法律[酒税法]により禁止されています)。

さて、その梅の実。
慌てて段ボールの中を覗いて見ると、青くカチカチだった梅は追熟が進み、うっすらと黄色に…。

これはもう、すぐにでも始末をつけなければ。

こうしてなし崩し的に始まった、今年の“梅仕事”。
案の定、トラブル連発になりました。

トラブル続きの梅仕事2020

まずは梅の下ごしらえから。

水で洗って、必要に応じてアク抜きをして。その後、布巾で水気を拭きとって、竹串でなり口(ヘタ)を取って。

梅の良い香りに包まれながら、ひとり黙々とやる作業。『良い時間だなぁ~…』としみじみ感じます。

…と、幸せを感じたのも束の間。ここからがトラブルの連続でした…。


まず、キッチンスケールの故障。
長年使ってきたお気に入りのキッチンスケールが、よりによってこのタイミングで故障。梅や砂糖の分量が計測不能に。

お次はハチの乱入。
どこからかハチが乱入してきて、梅の香りに包まれていた平和な台所は一転して修羅場に。追い出そうと奮闘中に梅の実や砂糖が入ったボウルを落としてしまい、辺りは大惨事。

その後なんとか外に追いだしたものの、ちょうど甘露煮を作ろうとコンロに火をつけたタイミングで、まさかの2匹目が登場。ハチとの格闘に夢中で火力の調整を忘れてしまい、気づいた時には時すでに遅し。落し蓋代わりの布巾をそっとめくってみると、鍋の中には皮が破けた梅の姿が…。

床に広がる砂糖と傷ついた梅の実。
吹きこぼれたシロップでベタベタになったガスコンロ。
無残に皮が破けた可哀そうな甘露煮(…に、なるはずだったもの)。

なんともいえない徒労感に襲われながらつくづく思ったことは、

「今日は本当にツイてない」。

終わり良ければ…?



結局、梅酒と梅シロップは“なんとなく”の目分量で仕込み、「甘露煮もどき」は仕方がないのでそのまま冷蔵庫へ。傷ついてしまった梅は、もう少し追熟させてからジャムにすることにしました。

その日の夜。
「甘露煮もどき」の味を確認しようと、恐る恐る一粒食べてみたのですが…

これが意外にも悪くない。いや、むしろおいしいかも?という出来で。

当然見た目は悪いし、食感も柔らか過ぎて「甘露煮」というより「実の形状が残っているジャム」という感じ。甘味も強めで、スキッとした酸味が残っている方が好きな私好みの味じゃない。

でも、これはこれでおいしい。紅茶やヨーグルトに良く合いそう。何より、柔らかくて甘~くて、疲れた時に食べると元気がでそうな味。

これは梅の実の存在を忘れて熟してしまったり、キッチンスケールが故障して目分量になってしまったり、ハチが乱入して吹きこぼれていなかったら、出会えなかった味かもしれません。


そう考えれば…

朝、畑で手入れをしている最中に雨が降ってくるよりは、畑に行く前に降り出してくれて良かったかもしれないし。

朝食中、コップを倒して水びたしになったことで床の掃除ができたし。

仕込み中は色々あったけれど、いつもと違うレシピで作った晩ごはんのミートソースは、いつもよりおいしかった気がするし。

梅の甘露煮も、トラブルが続いたおかげで(?)新しい味と出会えた。
初めて目分量で仕込んだ梅酒や梅シロップも、そしてこれから作るジャムも、もしかしたら甘露煮のように新しい“おいしい”に出会えるかも?

それまで「今日はツイてない」と思っていたのが、一粒の梅を食べたことで「かえってツイていたのかも?!」と思えてしまうのだから…『我ながらゲンキンな奴だなぁ』と、深夜の台所でひとり苦笑してしまいました。

 “ツイてない日”の梅仕事も、悪くない。

それから、『今日はツイてないな~』と思ったら、1日の終わりにおいしいものを食べるのは良い作戦だな!と、思った1日なのでした。


伊那谷は、梅雨も梅の収穫も後半戦に入るころでしょうか。

仕込んだ梅酒が飲めるようになるのは、梅雨が明けて夏も終わった、おそらく秋のはじめ頃。目分量で仕込んだ梅酒の味は、果たして…?

今から秋が楽しみです。